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2013年6月13日

読書レベル:色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」
村上 春樹



 大学二年生の七月から、翌年の1月にかけて、多崎つくるはほとんど死ぬことだけを考えて生きていた。その間に二十歳の誕生日を迎えたが、その刻み目はとくに何の意味も持たなかった。それらの日々、自らの命を絶つことは彼にとって、何より自然で筋の通ったことに思えた。なぜそこで最期の一歩を踏み出さなかったのか、理由は今でもよくわからない。そのときなら生死を隔てる敷居をまたぐのは、生卵をひとつ呑むより簡単なことだったのに。
 つくるが実際に自殺を試みなかったのはあるいは、死への想いがあまりにも純粋で強烈すぎて、それに見合う死の手段が、具体的な像を心中に結べなかったからかもしれない。具体性はそこではむしろ副次的な問題だった。もしそのとき手の届くところに死につながる扉があったなら、彼は迷わず押し開けていたはずだ。深く考えるまでもなく、いわば日常の続きとして。しかし幸か不幸か、そのような扉を手近な場所に見つけることが彼にはできなかった。

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