My virtual Japanese notebook subject to my whimsy.

2013年6月13日

読書レベル:「限りなく透明に近いブルー」

「限りなく透明に近いブルー」
村上 龍




 飛行機の音ではなかった。耳の後ろ側を飛んでいた虫の羽音だった。蠅よりも小さな虫は、目の前をしばらく旋回して暗い部屋の隅へと見えなくなった。
 天井の電球を反射している白くて丸いテーブルにガラス製の灰皿がある。フィルターに口紅のついた細長い煙草がその中で燃えている。洋梨に似た形をしたワインの瓶がテーブルの端にあり、そのラベルには葡萄を口に頬張り房を手に持った金髪の女の絵が描かれてある。グラスに注がれたワインの表面にも天井の赤い灯りが揺れて映っている。テーブルの足先は毛足の長い絨毯にめり込んで見えない。正面に大きな鏡台がある。その前に座っている女の背中が汗で濡れている。女は足を伸ばし黒のストッキングをクルクルと丸めて抜き取った。
 「ちょっと、そこのタオル取ってよ。ピンクのやつ、あるでしょう?」
 リリーはそう言って丸めたストッキングをこちらへ投げた。たった今仕事から帰ったばかりだと言って、手にとった化粧水を指で光っている額に硬く叩きつける。
 「それで、その後どうしたの?」

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(村上の書き方)蠅-->蝿(現在の書き方)

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